歩く
現代人は靴がなければ野外を歩けない。
1.行動の原点となる「靴選び」とフィッティング
アウトドアにおいて「歩く」ことは生き延びるための行動の原点ですが、現代人は靴がなければ野外を歩くことができません。そのため、フィールドや行動内容に合わせた靴選びが極めて重要です。重い荷物を背負って岩場を歩く場合は足首をしっかり固定できるハイカットの登山靴を、平坦地での行動が多い場合は軽量なトレッキングシューズを選ぶなど、目的に応じて使い分けます。さらに、自分の足に正確にフィットする靴を選ぶことが、靴擦れなどのトラブルを防ぐカギとなります。靴擦れ防止や保温・吸汗対策として、吸水拡散性のある化学繊維のインナーソックスと、クッション性のあるウールの厚手靴下を重ね履きすることも推奨されています。
2.危険箇所(岩場、川、雪面)での歩き方
自然の中にはあらゆる危険が潜んでおり、地形に応じた歩行技術が求められます
岩場:両手両足の4点のうち、必ず3点で体を支えながら1本ずつ動かして移動する「三点確保」が基本です。恐怖心から岩肌にへばりつかず、体はなるべく起こして垂直に保つことが大切です。
川(渡渉):浅くて流れの緩やかな場所を選び、すり足で慎重に歩きます。ストックや木の枝を使ってバランスを取ることが有効です。
雪の上:スリップや滑落に注意し、ストックやアイゼン(滑り止め)を活用して慎重に進みます。
3.疲労を防ぐパッキングとペース配分
時間歩き続けるためには、バックパック(リュック)の背負い方や荷物の詰め方(パッキング)が大きく影響します。バックパックの重心は「より背中に近く、より高い位置」自分の歩くスピードを把握し、無理のないペースを保つことが事故を防ぎます。疲れきってしまう前に、「1時間に10分ほど」の短い休憩をこまめに取り、歩行のリズムを崩さないように心がけます。
4.道迷いの防止と、迷ったときの鉄則
足元の踏み跡ばかりを見ていると、動物が通る「けもの道」や、雨水が削った跡などに誤って入り込み、ルートを見失う危険があります。万が一道に迷ってしまった場合の最大の鉄則は、「パニックにならず、進んできたルートを正確に引き返すこと」です。むやみにショートカットを試みたり、沢を下ったりする行動は非常に危険であり、絶対にしてはいけません。現在地を見失わないためにも、日頃から地図とコンパスの使い道に慣れておくことが重要です。
着る
人間は進化の過程で体毛を失ったため、衣服は体温を調節し、自然の脅威(紫外線、毒虫、落石、雨風など)から身を守る「肌の一部」としての役割を果たします。適切なウエア選びと着こなしは、体力消耗や低体温症を防ぐための大切な技術です。
1.機能を最大限に引き出す「レイヤード(重ね着)」システム
衣服はただ重ねるのではなく、素材の特性を理解してシステムとして組み合わせる「レイヤード」が基本です。ウエアは着る位置によって3つの層に分けられます。
アンダーウエア(下着):肌に直接触れるため、かいた汗を素早く吸収・拡散させる「吸湿性と速乾性」が最も重要です。一度濡れると乾きにくい綿(コットン)は体の熱を奪うため不向きであり、クールマックスなどのケミカル素材が適しています。
ミッドウエア(中間着):保温性や湿気の放散性を重視します。フリースやセーターなどが該当し、軽く、暖かい空気を蓄える役割を持ちます。
アウターシェル(外衣):防風・防水・防寒が主な役割です。風雨を防ぎつつ、重ね着を想定してひとまわり大きめのサイズを選ぶのがポイントです。
2.末端部分と首から上の徹底した保温
寒冷な環境では、体の中心部に血液を集めるため、手先や足先などの末端部分が真っ先に冷え、凍傷のリスクが高まります。
手足の保温:吸水・放散性の高いケミカル素材のインナーソックス・手袋に、ウールなどのアウターを重ねるのが効果的です。ただし、重ねすぎて足を圧迫すると血行不良を招くため注意が必要です。
首から上の保温:多くの血管が体表面近くを通る「首から上」は、体内の熱が発散しやすい部位です。ネックウォーマー、目出し帽、ジャケットのフードなどを活用して確実に保温することが重要です。
3.雨対策と「蒸れ」の解消
雨に濡れて体を冷やすことは、体力を激しく消耗させるため絶対に避けなければなりません。上下セパレートのレインウエアやポンチョなどを状況に応じて使い分けます。 同時に注意すべきなのが、衣服内の汗による「蒸れ」です。ゴアテックスなどの透湿防水素材を着ていても激しい運動で蒸れは発生するため、蒸れを感じたら早めにファスナーを開けて湿気を逃がす(換気する)ことが大切です。
4.衣服を長く大切に着る精神(バブアーに学ぶ)
現代のアウトドアウエアは高機能なケミカル素材が主流ですが、熱に弱く、劣化によるゴミ問題などの環境負荷も指摘されています。一方、イギリスの「バブアー」のように、天然素材(エジプト綿)にワックスを塗って防水性を持たせ、修繕(リペア)しながら長く着続けるというアプローチもあります。サバイバルの視点からは、一時的な快適さだけでなく、自然環境と共存し、衣服を資源として大切に扱う姿勢も求められています。
食べる
野外において「食べる」ことは、肉体を維持して活動エネルギーを得るだけでなく、集中力の低下や精神的ストレスを防ぐための根源的な行動です。
1.生命を支える「水」の確保と安全な摂取
こまめな水分補給:人間は1日に2~4リットルの水を必要とし、体重のわずか2%の水分を失うだけで体温調節に支障をきたし、10%を失うと熱中症など生命の危機に陥ります。一度に大量の水を飲むと体内のミネラルバランスが崩れるため、「喉の渇きを感じる前に少しずつ飲む」ことが鉄則です。
安全な飲料水の作り方:然の沢水などは、エキノコックスなどの寄生虫や病原菌に汚染されているリスクがあるため、そのまま飲むのは危険です。必ず煮沸するか、携帯用の高機能浄水器(ウォーター・フィルター)で濾過して安全を確保する必要があります。
2.自然からの食料調達と「毒」への警戒
食べられるものを見つける:山菜(フキノトウやセリなど)や木の実のほか、イナゴなどの昆虫やカタツムリも調理すれば立派な食料になります。鳥や獣を捕獲するのは難しいため、比較的捕まえやすい「魚」を狙うための釣り具を持参することが推奨されます。
有毒植物・毒キノコの回避:トリカブト(食用草のニリンソウに酷似)やドクゼリなど、一口食べるだけで命に関わる猛毒植物が存在します。キノコ類も判別が非常に難しいため、「食べられることがはっきりわかっているものだけを選び、よくわからないものは絶対に口にしない」という強い自制心が求められます。
3.道具に頼らないサバイバル調理法
鍋や鉄板がなくても、身近な自然を利用して調理する技術があります。
直火ではなく「おき火」を使う:魚や肉を串に刺し、炎が落ち着いた「おき火」の周りに立てておくことで、焦げずにじっくりと中まで火を通すことができます。
自然物を使った調理器具:太い竹を切って中に水と米を入れ、火にかけてご飯を炊いたり、地面に穴を掘って焼いた石と葉(フキやバナナの葉)で食材を包んで土をかぶせる「蒸し焼き料理」など、先人の知恵を応用した調理が可能です。
4.状況に応じた「行動食」と「保存食」の活用
行動食・非常食の携帯:野外ではカロリー消費が非常に激しいため、「軽くて保存が利き、調理不要で高カロリー」な行動食(チョコレート、ナッツ、ドライフルーツなど)を常に携帯しておくべきです。甘いものばかりだと味覚が偏って食欲が減退するため、塩分のあるソーセージや酸味のあるキャンディーなどをバランス良く組み合わせるのがポイントです。
先人の知恵に学ぶ保存食:アメリカ先住民が考案したペミカン(干し肉と脂肪の塊)や、日本の伝統的な干し飯(ほしい)、切り干し大根や高野豆腐などの乾物は、軽量で栄養価が高く、アウトドアや非常食として非常に理にかなった食品です。
火をおこす
火は体を暖め、食料を調理するだけでなく、厳しい自然環境の中で「精神を解きほぐし、安心感を与えてくれる」不可欠な存在です。
1.火をおこすための基本と準備
火をおこすには「高い温度(熱)」「燃料」「酸素」の3つの要素が必要です。まずは火床を作る前に、十分な量の薪を集めます。地面に落ちて水を吸った木ではなく、川原の流木や、立ち枯れしている枝などが適しています。着火しやすいようにナイフで木の表面を細かく削って毛羽立たせたり、火口(ほくち:最初に火をつける燃えやすい素材)として枯れ草やスギの葉、白樺の樹皮などを用意しておきます。
2.確実な着火手順(火の育て方)
マッチでいきなり太い薪に火をつけようとしたり、ガソリンをかけたりするのは失敗の元です。火は小さな炎から順に大きく育てていくのが鉄則です。
ティピー(円錐)型に組む:中心に火口を置き、その周囲に細い薪を円錐状に立てかけて組む「ティピー型」が基本です。火力が中心に集中しやすく、風の通り道ができるため酸素も十分に供給されます。
焦らず太い薪へ:マッチなどで火口に着火したら、徐々に太い薪へと火を移していきます。薪が一段落して「おき(赤く燃える炭の状態)」になってから太い薪を追加することで、火が安定します。
3.悪天候(雨・雪・強風)での火おこし
雨や雪の日など、悪条件のときほど体温維持のために焚き火が必要になります。
乾いた薪の探し方:木の下や岩陰を探すか、濡れた倒木でも表面の樹皮を削り落として内側の乾いた部分を利用します。
雪や風への対策:雪の上では、火の熱で雪が溶けて水になり火が消えてしまうため、あらかじめ太めの薪を地面に敷き詰めて「火床」を作ります。強風時は、石や丸太を積んで風防(風よけ)を作るか、地面を掘って炉を作ります。
4.マッチやライターがない場合の着火テクニック
万が一の事態に備え、自然の力や摩擦を利用した着火方法を知っておくことがサバイバルでは重要です。
メタルマッチ(火打石・ファイアースターター):マグネシウムなどの金属をこすり合わせて火花を飛ばす道具です。水に濡れても拭き取るだけで使え、ティッシュや削りくずなどの火口に的確に火花を落とすことで着火できます。
太陽光の利用:虫眼鏡(ルーペ)や、双眼鏡のレンズ、懐中電灯の反射鏡などを使い、太陽の光を一点に集中させて火口を燃やす方法です。
摩擦熱の利用:弓きり」や「もみきり」など、木と木をこすり合わせて摩擦熱を起こし、火種を作る古来の方法です。根気と体力が必要ですが、道具がない時の最終手段となります。
5.携帯ストーブの活用
緊急時や、疲労困憊で焚き火の準備に時間をかけられない時のために、軽量でコンパクトな非常用ストーブを携帯しておくことも推奨されています。固形燃料を用いてマッチ一本ですぐにお湯を沸かせる「ポケットストーブ」や、電池駆動のファンで空気を送り込み、小枝だけでも強力な火力を得られる「サバイバルストーブ」などが役立ちます。
切る
野外において「切る」ための道具であるナイフは、人間の手だけではできない作業を可能にする、サバイバルにおいて最も重要なツールです。
1.サバイバルにおけるナイフの重要性と選び方
野外に「たったひとつの道具しか持つことを許されずに」入っていくとしたら、ナイフを選ぶべきとされるほど、ナイフは人間が生きるための基本的な道具(ツール)です。ナイフを選ぶ際の最初のポイントは、大きくて重いものではなく、「自分の思いどおりにコントロールしやすいサイズ」を選ぶことです。テント内での作業なども考慮し、アウトドア・サバイバル用としては、刃の長さが10cm以内の多目的型フォールディング・ナイフ(折りたたみ式)が使いやすいと推奨されています。
2.実践を通じた技術の習得
ナイフはただ持っているだけでなく、使いこなしてこそ自分のものになります。木を削って何かを作る(ウィットリング)ことや、キャンプの合間に魚をきれいに三枚におろすといった実践を通して、ブレードの根元や先端といった部位ごとの使い方、力の入れ方を体で覚えることが大切です。
3.ナイフがない場合の工夫(代用品の自作)
万が一ナイフがない場合でも、「ナイフを忘れたからといってあきらめてはいけない。必要なものは工夫して手に入れる」という発想がサバイバルには不可欠です。江戸時代に無人島で生き延びた長平が釘と石で手製のナイフを作ったように、黒曜石やチャートなどの石、ガラスや陶磁器の破片、動物の骨、竹、さらには空き缶(アルミ・スチール)などを加工して刃物の代わりにする方法があります。
4.切れ味を保つメンテナンス(シャープニング)
研がないナイフはナイフとはいえない」と言われるほど、常に鋭い刃を保つことが重要です。切れないナイフは作業効率が悪いだけでなく、無理な力が入って刃が滑ったり欠けたりするためかえって危険です。アウトドア用ナイフは15~20度くらいのエッジ角を保ちながら砥石で研ぐ技術をマスターするとともに、現場でも平らな石や専用のシャープナーを使ってこまめにタッチアップ(簡易研ぎ)を行う必要があります。
5.ナイフを持つ責任と「痛み」を知る
ナイフは決して人を傷つける凶器ではなく、人間を育むための重要な道具(文化)です。かつての子どもたちが小刀(肥後守など)を使って鉛筆や木を削り、時には誤って手を切ることで「痛み」と「刃物を不用意に扱ってはいけないこと」を学んだように、ナイフを持つ者はその危険性を自覚し、責任を持って扱う資格を持つことが強調されています。
結ぶ
「一本の綱に命を与える人間の知恵」と表現されるロープワーク(結ぶ技術)は、サバイバルにおいてシェルター設営から救助まであらゆる場面で不可欠です。
1.ロープワークの基本目的と「もやい結び」の重要性
数千種類もあると言われる結び方ですが、その目的は「①輪をつくる」「②棒などに結んで止める」「③張ってテンションをかける」「④ロープとロープをつなぐ」「⑤こぶをつくる」の5つに集約されます。中でも「キング・オブ・ノッツ(結びの王様)」と呼ばれるのが「もやい結び」です。簡単で確実に結べるうえ、どれほど強いテンション(荷重)がかかっても結び目が固く締まりきらないため、後からほどきやすいという優れた特徴を持っています。物を吊るす、牽引する、人間を救助するなど、その応用範囲は計り知れません。
「一本の綱に命を与える人間の知恵」と表現されるロープワーク(結ぶ技術)は、サバイバルにおいてシェルター設営から救助まであらゆる場面で不可欠です。
2.人命を救う・安全を確保するための結び方
過酷な状況下では、目的に応じた結び方で確実な安全を確保する必要があります。
腰かけ結び:怪我や疲労でロープを握る力がない人を救助する際などに使われます。二重の輪を作り、足や胴体を通して体を支えることができる、非常に信頼性の高い結び方です。
崖の登り下り(ロープの加工):登降時の安全確保(確保支点との連結など)には、もやい結びや二重8の字結びなどが役立ちます。また、ロープ単体で登り下りしなければならない場合は、「連続止め結び」でロープに等間隔のこぶを作って手がかりにしたり、「バタフライ・ノット」で足場となる輪を作ったり、「てこ結び」で木の棒を挟み込んで簡易的な「はしご」を作る技術が有効です。
3.ロープを扱う上での細心の注意(管理とメンテナンス)
ロープは時に自らの生命を預ける重要な道具であるため、扱いには細心の注意が必要です。
劣化を防ぐ:ロープを傷める原因となるため、砂やオイルの付着を嫌います。地面への直接の放置、不要な水濡れ、そして紫外線(直射日光)を避けて保管することが鉄則です。
末端の処理:扱いやすくするため、そして結び目が抜けるのを防ぐためにも、化学繊維のロープはあらかじめライターの熱などで溶かして固める「末端処理」をしておく必要があります。
4.ロープを傷めない正しい「まとめ方(収納)」
ロープは「結ぶ」だけでなく、「しまう(まとめる)」方法も重要です。 適当にぐるぐる巻きにしてしまうと「キンク(よじれ)」が生じ、いざという時に絡まりやすくなるだけでなく、ロープに無理な力がかかって強度を低下させる(傷める)原因になります。よじれを直しながら束ねていく「よじれないまとめ方」を習得するとともに、ロープの長さや太さに応じて、コンパクトにまとまる「エビ結び」や、細めのロープに適した「棒結び」などを適切に使い分けることが求められます。
眠る
サバイバルにおいて「眠る」ことは、単なる休息ではなく、肉体の回復や精神的な安定を保ち「明日の行動を保証する」ための極めて重要な生存行動です。
1.自然災害を避けた「安全な場所」の確保
睡眠中は外部からの刺激に無防備になるため、何よりも安全な場所選びが必須となります。
避けるべき危険な場所:鉄砲水や急激な増水の危険がある川の周辺(中州や河川敷)や幅の狭いV字谷、落石の恐れがある崖の下、落雷や強風のリスクが高い尾根や峰付近は絶対に避ける必要があります。
安全な場所の目安:大木がある場所や神社仏閣、遺跡の周辺などは、古くから長期間自然災害に遭っていない証拠であり、ビバーク地(緊急野営地)として理想的です。
2.雨風を防ぐ地形と道具の活用
野外での睡眠時に最も警戒すべきは、風と雨(濡れ)による「体温低下」です。風速が1m増すごとに体感温度は約1度低下し、体が濡れているとさらに急激に体温を奪われます。
自然の地形の利用:テントやツェルト(簡易テント)がない場合は、岩陰(落石に注意)、大木の下(枯れ枝や落雷に注意)、倒木の下などの自然の地形を有効利用して雨風をしのぎます。
ポンチョの活用:タープのように張って屋根にしたり、そのままかぶって雨や風を防いだりするのに非常に便利です。
3.体温を逃がさない保温の工夫
エマージェンシー・ブランケットの活用:宇宙服にも使われているアルミ素材の薄いシートで、体をすっぽり包み込むことで体から放射される熱を反射し、高い防風・保温効果を発揮します。
新聞紙など身近なものの活用:専用の防寒具がない場合は、新聞紙などをくしゃくしゃに丸めて衣服の内側に入れることで、空気の層(デッドエア)ができ保温効果が得られます。
局所的な保温:熱を運ぶ動脈が皮膚の近くを通っている首筋、関節部、腰などを、帽子やマフラー、フードなどで重点的に温めるのが効果的です。
4.雪の中での睡眠(雪洞と濡れ対策)
雪期は、風や雪の寒さを防ぐために横穴式や竪穴式の「雪洞」を作って身を隠すのが有効ですが、風が吹き込まないように風向き(風下側の斜面を選ぶなど)に注意する必要があります。このとき最も注意すべきなのは「濡れた衣服を肌に直接触れさせないこと」です。必ず着替えるのが基本ですが、どうしても着替えがない場合は、乾いた衣服(フリースなど)を一番下に着て、その上に濡れた衣服を着込むといった工夫で体温を保つことが大切です。
灯す
野外において「灯す(光の確保)」ことは、視覚に頼って生きる人間の活動範囲を夜間にも広げてくれる重要な要素です。
1.夜間行動における光の意義と限界
視力をもっとも頼りにしている人間にとって、本来夜間は活動に不向きな時間帯ですが、「ライト(光)」を獲得したことで夜間でも自由に行動できるようになりました。しかし、人間が野外に持ち運べる光の量は限られているため、光があるからといって油断せず、夜間の行動には昼間以上の細心の注意を払う必要があります。
2.状況に合わせたライトの選び方と管理
自分の行動や目的に合った、信頼できるライトを厳選して携帯することが不可欠です。
種類の使い分け:手が自由になり作業に便利な「ヘッドライト」、月明かりと併用して必要な時だけ照らしやすい「小型ハンドライト」、光量が大きく護身用の武器としても使える「大型のマグライト」など、それぞれの特性を理解して使い分けます。
トラブルへの備え:バルブ(電球)切れに備えて予備バルブの場所を確認し、予備のバッテリー(電池)も必ず用意しておきます。
バッテリーの選択:アルカリ電池はセットしたまま放置すると液漏れを起こすため注意が必要です。サバイバル用途としては、保存寿命が10年以上あり、液漏れもなく寒冷地でも性能が落ちにくいリチウム電池の使用が推奨されています。
3.強すぎる光の落とし穴と「自然な光」の見直し
明るいライトは便利ですが、「明るくすると、逆に周囲が見えなくなることもある」という点に注意が必要です。人間の目は暗闇でも瞳孔が開いてわずかな光を感知できますが、一度強いライトをつけてしまうと瞳孔が収縮し、光が当たっていない周囲の状況(足元の分岐など)が逆に見えなくなってしまい、道に迷う原因になります。
月明かりさえあれば、夜間でも周囲の状況を把握しながら歩くことは十分に可能です。キャンプなどでも大型ランタンをいくつも点灯させるのではなく、キャンドル(ろうそく)のような小さな光で必要な場所だけを照らす程度にとどめるほうが、神経が研ぎ澄まされて「闇がよく見える」ようになります。自然に溶け込む適度な明るさを持つ光の価値を、あらためて見直すことが提案されています。
測る
フィールドで安全かつ確実に行動し、直面する危険を回避するためには、時間、方位、距離などの正確な情報を得るための「測る」技術が極めて重要になります。
1.天体の動きから「時刻」を測る
時計がない状況でも、自然の動きからおおよその時間を推測することができます。
太陽の動きを利用する:太陽が1時間に15度移動する(地球が自転する)法則を利用し、コンパスの中心にマッチ棒などを立てて影の角度を測ることで、真南(12時)を基準とした現在時刻を計算できます。
月を利用する:月の満ち欠け(満月、半月、三日月など)と、その月が空のどの方角にあるかの関係性から、夜間の時刻を判断することが可能です。
2.星や太陽の位置から「方角」を測る
道に迷った際などに正しいルートを導き出すため、コンパスがなくても方角を知る術を持っておくことが大切です。
アナログ時計と太陽:アナログ時計の短針を太陽の方向に向けたとき、その「短針」と文字盤の「12」のちょうど中間の角度が指す方向が「南」になります。
星を利用する:夜間は、北斗七星やカシオペア座を目印にして「北極星」を見つけることで、正確な「北」を知ることができます(南半球では南十字星から南を知ります)。
影を利用する:地面に立てた棒の影の先端に印をつけ、15分ほど待ってから移動した影の先端に再び印をつけます。この2つの印を結んだ線が「東西」を示すため、正確な方角がわかります。
3.自分の体と図形の性質を利用して「距離・高さ」を測る
メジャーなどの道具がない野外では、自分自身の身体や数学的な原理が立派な測量ツールになります。
身体尺(自分の体のサイズ)の活用:自分の「1歩の平均歩幅」「両手を広げた長さ(自身の身長とほぼ同じ)」「手を広げたときの親指から小指までの幅」「目の位置までの高さ」などを普段から測って覚えておけば、対象物のおよその長さや距離を瞬時に判断できます。
三角形の相似を利用した測量:直接渡れない「川幅」や、登れない「崖の高さ」などは、図形の「三角形の相似(2つの相似な三角形の辺の比は等い)」の原理を応用します。川岸に目印を置いて三角形の頂点を見立てたり、一定の長さの棒を持った腕の角度を利用したりすることで、離れた場所からでもロープや歩幅を使って正確に計算することができます。
4.計測の「精度」を高めるための技術
誤差を減らし、より正確な計測を行うための身近な工夫です。
直角を正確につくる:測量に必要な「直角(90度)」は、1本のロープを特定の比率で折り曲げて正三角形や二等辺三角形を作ったり、1枚の紙を2回きれいに折り合わせたりすることで現場で簡単に作り出すことができます。
目測の基準を持つ:距離を目視で測る訓練として、「100m、200m離れたときに人間の姿がどう見えるか(全体の姿が見えるか、手足の動きが見えるかなど)」を基準として覚えておくことが非常に役立ちます。また、カメラのピントを合わせてレンズの距離目盛りを読み取る方法も有効です。
重さの比較:重さを量る際は、「単3電池1本が約20g、単1電池が約120g、1.5Lペットボトルに水を入れると約1.5kg」といった具体的な比較物を意識しておくことで、感覚の精度が高まります。
備える
1.あらゆるリスクを想定する「心の備え」
人間には未来の危険を察知する能力が備わっていないため、常に予期せぬ困難やトラブルが待ち受けていることを前提とし、あらゆる事態を想定して行動しなければなりません。自然を無防備に侮ると、夏場であっても雨濡れや強風による低体温症で命を落とす危険があります。自分の安全は自分で確保するという意識を持ち、装備を整えるだけでなく「気持ちの面でも確実にリスクに備える」という慎重さが最も重要です。
2.自分専用に厳選した「キット」の準備
以前の会話でも触れた通り、万が一の事態に備えたサバイバル・キットは、刃物や火をおこす道具を中心に、自分に必要なものをコンパクトにまとめて携帯することが基本です。同様に、ファーストエイド(救急)キットも市販品をそのまま使うのではなく、自分の体質(持病やアレルギー薬など)や行き先の環境(毒虫対策のエクストラクターなど)に合わせて、本当に役立つものを「自分専用にアレンジ(厳選)」しておくことが求められます。
3.知識の携帯と「多機能ツール」の使いこなし
緊急時にパニックを防ぐための備えとして、遭難信号やロープワークなどの知識がまとめられたプラスチック製の「ライフカード(携帯用マニュアル)」を持参するか、自作のカンペを用意しておくことが有効です。また、ポケットに収まる「多機能ツール(マルチツール)」や「カード型ツール」は非常に便利ですが、機能の数だけで選ぶのではなく、自分の行動において本当に役立つ機能の組み合わせを見極めて選ぶ必要があります。
4.車両トラブルや脱出への備え
フィールドに向かう際の車の運転における非常事態への備えも欠かせません。
スタック(立ち往生)対策:悪路を走る場合は、牽引ロープ、エアジャッキやハイリフトジャッキ、スコップなどの脱出用装備を必ず車に積んでおくべきです。
車内からの緊急脱出:万が一、車が水中に転落したり横転したりした場合、水圧や電気系統のショートでドアや窓が開かなくなります。パニックにならずにサイドガラスを叩き割るための「緊急脱出用ハンマー(シートベルトカッター付き)」を、トランクではなく「運転席に座ったまま手の届く位置」に必ずセットしておくことが命を救う備えとなります。
守る
人間は本来、大自然の生態系のなかでは非常に無力な存在です。毒を持つ生物や、強大な自然災害の前ではいとも簡単に命を落とす危険があることを自覚し、「いかに自分を守るかを考える」ことがサバイバルの大前提となります。
1.野生動物(クマ・イノシシなど)からの防衛
最大の鉄則は「出会わない方法を第一に考える」ことです。クマに対しては、ニオイで引き寄せないための食料管理と、ラジオやホイッスルで人間の存在を知らせて接近を防ぐことが重要です。万が一遭遇してしまった場合、絶対に背中を見せて走って逃げてはいけません(相手の追う本能を刺激するため)。相手の目を見ながらゆっくりと後退し、突進された場合の最終防衛手段として、トウガラシエキスで作られた「クマ撃退スプレー」を顔面に向けて一気に噴射します。イノシシや野犬に遭遇した場合も同様に、背中を見せずにゆっくり後退するのが効果的です。
2.毒を持つ生物(ヘビ・スズメバチ)への対処
マムシなどの毒ヘビや、アナフィラキシーショックを起こす危険のあるスズメバチの被害を防ぐには、服装と迅速な応急処置がカギになります。
予防:長ズボンやハイカットの靴を履いて肌の露出を防いだり、ハチを刺激しやすい「黒色」を避けたウエアを着用したりします。ハチの巣にはむやみに近づかず、静かに立ち去るのが鉄則です。
応急処置:もし咬まれたり刺されたりした場合はパニックにならず、すぐに患部を流水で洗い、「エクストラクター」などの吸引器で毒を吸い取ります。その後、安静を保ちながら一刻も早く医療機関へ向かいます。
3.恐ろしい「落雷」からの避難
雷が発生しそうな場合は、山頂や尾根などの高い場所を避けて、くぼ地へいち早く避難します。
安全な場所:金属に覆われた「車の中」は、電気が表面を伝って地面に逃げるため安全です。
野外での姿勢:高さ4m以上の樹木からは「枝先から2m以上離れた位置」に退避し、しゃがんで体を丸めるように低い姿勢をとります。雨が降っていても傘をさしてはいけません。グループの場合は、万が一の被害を最小限にするため「5m以上の間隔」をあけて分散します。
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4.渓流・河川での「水」の事故対策
晴れていても上流での雨によって急激に水かさが増す**「鉄砲水」**の危険があるため、中州や河原でのキャンプは絶対に避けるべきです。もし誤って川に流されてしまった場合は、下流に向けて仰向けの姿勢をとり、足を下流に向けて頭を岩などにぶつけないように防御しながら、流れの緩やかな場所(エディなど)へ向かって泳ぎます。また、濡れた衣服をそのまま着ていると気化熱で体温を奪われ低体温症に直結するため、すぐに乾いた衣服に着替える必要があります。
5.雪山の脅威(雪崩・雪目)の回避
雪崩:積雪期で最も恐ろしい雪崩は、一度巻き込まれると絶対に助かるという保証がありません。そのため、「雪崩が発生しやすい場所(30~45度の斜面、沢沿い、樹林帯のなかの広場など)に近づかない」ことが唯一かつ最大の防御策です。
雪目(紫外線):雪面は紫外線の8~9割を反射するため、対策を怠ると角膜が傷つく「雪目」になり、行動不能に陥る危険があります。これを防ぐため、雪山ではサングラスの着用などが不可欠です。
知らせる
人間ひとりの力には限界があり、危機的状況では「いかに自分の存在や状況を他者に伝えるか」が文字通り生死を分ける決定的な要素となります。
1.体力を温存し、遠くまで届く「音」のシグナル
自力で大声を出し続けることは著しく体力を消耗するため、「ホイッスル(笛)」が非常に有効なサバイバルグッズとなります。ホイッスルには内部にボールが入っているタイプとないタイプがありますが、水に濡れたり凍結したりしても音が鳴らなくなる心配がない「ボールが入っていないタイプ」がどんな状況でも使用できるため推奨されています。ただし、積雪地帯では雪が音を吸収してしまう特性がある点には注意が必要です。
2.状況に応じた「光と視覚」のシグナルの使い分け
光や視覚によるサインは強力ですが、万能な道具はないため、状況(昼夜や天候)に合わせて使い分け、組み合わせることが大切です。
日中:太陽光を反射させて遠くの航空機などにピンポイントで合図を送る「シグナルミラー」が極めて効果的です。また、生木を燃やして白い煙を上げたり、廃タイヤやオイルを燃やして黒い煙を上げるなど、火や煙を使った発信も目立ちます。
夜間:強力な点滅光を発する「ストロボライト(レスキューライト)」を使用しますが、バッテリー切れのリスクがあるため過信は禁物です。
地上から上空への合図:地面に大きく「X(前進不能)」や「V(救助を求める)」などの国際的な対空救難信号(アルファベット)を描いて、上空からの発見を促す方法も有効です。
3.無線と携帯電話の活用と注意点
無線機:山岳地帯などで非常に頼りになります。日本では「11時~11時15分、16時~16時15分、20時~20時15分」が緊急通信の「沈黙時間(非常通信のために一般の交信をストップしてワッチする時間帯)」とされており、この時間帯に救難信号を発信すると受信される可能性が高まります。
携帯電話:年は山でも繋がりやすくなりましたが、谷間などで圏外になるリスクは常にあります。また、寒冷地ではバッテリーが急激に低下するため、使用時以外はジャケットの内側に入れて体温で温めておく工夫が必要です。
4.万が一に備える「情報」の携帯と事前共有
自ら発信できない最悪の事態に備えることも「知らせる」ための重要な手段です。
個人情報の携帯(SOSカプセル):ショックで意識を失った場合に備え、氏名、血液型、アレルギー(薬品等)、緊急連絡先などを記したデータシートを小さな防水の「SOSカプセル」に入れて身につけておくことで、発見時の迅速で適切な治療に繋がります。
行動計画書(登山届)の提出:フィールドに出る前に、行動予定やエスケープルート、持参している装備などを記した計画書を作成し、家族や警察に提出しておくことが、遭難時の早期捜索において極めて役立ちます。